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「はい。今年はムースだって。」 

丸いケースを目の前の男に差し出す。

中身は、チョコレート。

毎年この時期に限定の商品が出るチョコレート店の新作を、この男にあげるのが、近年の恒例行事になっている。

金髪碧眼の美男子が、チョコに目を輝かせる様は、かなり興味深い。

そして、僕がチョコをあげる代わりに、彼も僕にチョコをくれる。

彼の興味を引いたチョコを。

「貝の形をしたものを見つけたんだ。味はチョコだがな。」 

コーヒーをカップに注いで、グラハムに渡す。

彼は、机に腰掛けたまま、指でチョコを摘まんで食べ始めた。

「おいおい。行儀が悪いぞ。」

一応たしなめておく。この男は本当に、27歳なのだろうか?

「いいじゃないか、カタギリ。美味しいものは、すぐ食べたいのだから。」
 
ムースチョコをゆっくり味わい、嚥下した後に指を舐める。

体温が高いので、チョコを食べるとき、彼はいつも指先で溶かしてしまう。

チュッと音を立てて、指を唇から離すと、コーヒーに口をつける。

まったく、忙しない男だ。

僕もコーヒーをすする。

「カタギリ、ほら。」

ムースチョコを摘まんで、僕に食べさせようとする。

屈託のない笑顔に押され、口を開く。

チョコから彼の指が離れるときに、僕の唇に触れた。

「美味しいだろ?」

見上げてくる目は、キラキラしている。

なんなのだ、この生き物は。

僕は、堪らない気持ちになった。

「・・・ああ、美味しいな。」

拳を握りしめ、なんとか衝動を抑える。

舌に滑らかな食感が伝わってくる。

そして、上品な甘さが。

「お前のも、食べたい。」

さっき自分で持ってきたプレゼントを、手に持ち、小首を傾げる。

計算してやっているなら、大したヤツだ。

「はいはい。好きにしなよ。」

溜息をつき、コーヒーを自分の机の上に置く。

グラハムからチョコを受け取り、包装紙を取って、箱を開ける。

中には、白と茶色のマーブル模様の貝が並んでいた。

「すごいな、ほんとに貝みたいだ。」

一つ摘まんで、口に含む。

「でも、確かにチョコだね。」

「だろ?喜んでもらえたみたいだな。選んだ甲斐があったよ。」

僕の反応をみて、彼の方がよほど嬉しそうな顔をした。

「・・・はい。」

一つ摘まんで、彼の口元に運ぶ。

いたずらっ子のような顔で笑い、僕の目を見ながら口を開いた。

「いただきます。」

ぱくっ。

「おいおい、僕の指まで食べないでくれよ。」

かなり動揺した。

口内は温かく、僕の指にどんどん熱を伝えていく。

チョコを舐めようとする舌が、指も一緒に舐めていく。

ああ、心臓が壊れそうだ。

でも、彼から目が離せない。指を、引き抜けない。

チョコレートは、すぐに溶けてしまったけれど、彼は、僕の指をなかなか解放してくれなかった。

チュッと、音を立てて離れていった唇に、キスしたくなって、彼の顔ごと引き寄せて、口付けた。

首の後ろを右手で押さえ、彼が離れていかないようにした。

すると、彼は目を閉じて、僕の背中に腕を回した。


口の中は、ほのかにチョコの香り。

体温の高い彼の体は、僕の体に熱さを伝えていく。

コーヒーの湯気が立たなくなるまで、僕らは唇を離さなかった。









 
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